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浦和地方裁判所 昭和30年(ワ)313号 判決

原告

茂田井まつ 外三名

被告

株式会社小峯八郎商店

主文

被告は

原告茂田井まつに対して金十五万円

原告茂田井久雄、茂田井英治、野呂ふでに対して各金三万円

およびこれらに対する昭和三十年十二月一日から右金を完済するに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ

原告等のその余の請求を棄却する

訴訟費用は三分しその一を原告等の負担としその二を被告の負担とする

本判決は原告茂田井まつにおいて金三万円原告茂田井久雄、茂田井英治、野呂ふでにおいて各金七千円の担保を供するときはかりに執行することができる

事実

(省略)

理由

原告茂田井まつが亡茂田井儀作の妻、原告茂田井久雄がその長男、原告茂田井英治がその二男、原告野呂ふでがその長女であること、被告が本店を肩書地において資本金を百万円として各種植物油、鉱物油、油脂製品、砂糖の販売等を営む株式会社であること、被告の使用人である訴外菅井清一が昭和二十九年十月十二日午后三時二十分頃運転免許証なく被告の小型自動車(埼四―一五〇八号)を運転して被告の業務である油類等配達のため浦和方面から大宮方面に向けて大宮市仲町二丁目四〇〇五番地先仲仙道道路にさしかかつた際同方向に向つて自転車で進行中の茂田井儀作の背后から同人に激突し、そのため同人をして翌十三日午前三時四十分頃大宮市赤十字病院において脳挫傷により死亡するに至らしめたことは当事者間に争がないからこれを認めることができる。そこで本件事故の発生が訴外菅井清一の過失に基くものであるかどうかについて審按するに、自動車運転者は前方を進行する人を追越そうとする場合は警笛を鳴らすほか速力をゆるめ人の行動に注視して何時でも急停車の措置を構ずることができるよう細心の注意をくばる義務があると考える。しかるに成立に争ない甲第一、三、五、六号証第九号証の一、二の記載および証人菅井清一の証言によれば、訴外菅井清一は前記認定の道路上を時速三十粁で進行し約二十五米先きに茂田井儀作が自転車に乗つて同方向に進行するのを認めたがただ警笛を鳴らしただけで速力を減ずることも急停車の措置をとる態勢もとらなかつたため茂田井儀作が自動車との間隔約八米のところで突如自動車の方をふり返つた后道路の右側から左側に移行しようとして自動車の前方に出たので、あわててブレーキを踏みハンドルを左に切つたが及ばず自動車の右前バンバーを同人の乗る自転車に衝突転倒させて本件事故を発生させたものであることを認めることができるから本件事故発生従つて茂田井儀作の死亡は訴外菅井清一の過失によるものであるといわなければならない。しかしながら前段認定のように訴外菅井清一は警笛をならしているにかかわらず茂田井儀作は自動車の方をふりかえつた上右側から左側に移行しようとしてその前方に出たことは明らかに被害者である茂田井儀作の過失であり本件事故の発生には被害者の過失も加功したものであることをこれまた認めなければならない。そこで慰藉料の点について考えるのに、前記認定のように茂田井儀作の不慮の死に出あつて妻である原告茂田井まつ、子である爾余の原告等が精神上苦痛をこうむつたことは察するにあまりあるところである。従つて被告は訴外菅井清一の使用者として同人が被告の業務執行中に起した本件事故従つて茂田井儀作の死について原告等に対して慰藉料を支払う義務がある。そこでその数額であるが、成立に争いのない甲第二、十一、十二号証の記載および原告茂田井まつ訊問の結果によれば、茂田井儀作が死亡当時六十三才で別に定職なく不動産売買等の仲介をすることによる若干の謝礼金などによつて原告茂田井まつとの生計を営んでいたこと、原告茂田井久雄が靴製造会社に勤務して月収三万五千円を得ていること、原告茂田井英治が埼玉県交通課に勤務して月収一万六千円を得ていること、原告野呂ふでが現在市から生活扶助をうけて生活していることなどの事実が認められ(原告茂田井まつの供述中茂田井儀作が生前三万円の収入をあげていたことおよび原告野呂ふでが同人の仕送りによつて生計を営んでいたとの点は措信しない)これらの事実に成立に争いのない甲第十号証の一、二の記載、それに前段認定の被害者の過失の程度を斟酌して考えれば慰藉料の額は原告茂田井まつについては金十五万円爾余の原告等については金三万円をもつて相当とする。よつて被告は原告茂田井まつに対して金十五万円爾余の原告等に対して各金三万円およびこれらに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかである昭和三十年十二月一日から右金を完済するに至るまで民事法定利率である年五分の割合による金員を支払う義務がある。よつて原告等の本訴請求は右認定の限度で正当であるからこれを認容し爾余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十三条、かり執行の宣言について同第百九十六条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡岩雄)

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